材料の疲労破壊や応力腐食割れは、製品の信頼性を脅かす大きな課題です。その根本原因は、材料表面に潜む「引張応力」にあります。
ピーニング処理は、この引張応力を圧縮残留応力へと転換することで、材料に本来の強さ以上の耐久性を与える技術です。
本コラムでは、そのメカニズムと効果を詳しく紐解いていきます。
本コラムの第1回にて、種々のピーニング作用を紹介しましたが、本項では、ピーニング処理の目的として最も多く利用される作用、「圧縮残留応力の付与」についてお話しします。
球状粒子衝突により圧縮の残留応力が付与される主な要因、それは下記の2つです。
最も一般的であるのが「塑性変形」です。処理対象物表面への球状粒子衝突に伴い、処理対象物(材料)の表層は変形し、衝突エネルギが高い場合には弾性域/降伏応力を超え永久ひずみ(≒塑性変形)が発生します。すなわち、表層が球状粒子により叩き延ばされます。
一方、表層に連結/連続した材料内部には、球状粒子衝突の影響を受けない(塑性変形しない)弾性領域が存在します。材料表層が塑性変形により延びようとする力(引張応力)を、内部の弾性領域が拘束する/抑え込むことにより、圧縮の応力として残留します(図1)。
鋭い方ならピンときたかもしれません。
圧縮残留応力は、表層に発生する引張応力を内部の弾性領域が抑え込むことで発生するため、内部/材料の強度(降伏応力)を超える引張応力を抑え込むことはできず、したがって、降伏応力を超える圧縮残留応力を付与することはできません。付与できる圧縮残留応力の最大値は、降伏応力(または耐力)の0.5~1.0倍と言われています。
もう1つの要因が「相変態」です。ステンレス鋼や浸炭鋼などでは、状態によってはマルテンサイト組織中にオーステナイトが存在する(残留オーステナイト)場合があります。
残留オーステナイトは外力によりマルテンサイトへと変態することがあります(加工誘起マルテンサイト変態)。
処理対象物表面への球状粒子衝突のエネルギによって、オーステナイト(fcc:面心立方格子)からマルテンサイト(bct:体心正方格子)への変態が促進され、炭素の過飽和固溶による格子歪みが発生し、体積が2~4%程度膨張します。塑性変形の時と同様、この表層の体積膨張により発生する引張応力を、内部の弾性領域が拘束することにより、圧縮残留応力が発生します(図2)。
上述の通り、圧縮残留応力は、塑性変形や相変態に伴う引張応力の反力として発生するため、球状粒子衝突の影響を強く受ける材料表面近傍が高く、内部に行くほど低下する、深さ方向の分布を示します(図3)。
ピーニング処理では、球状粒子が処理対象物の表面に衝突することでもたらされる、塑性変形と相変態の2つの要因によって、圧縮残留応力が付与されることが分かりました。
では、ピーニングによって発生した圧縮残留応力は、材料にどのような変化をもたらすのでしょうか。
次項では、材料破壊のメカニズムと圧縮残留応力の関係を詳しく見ていきます。
材料の破壊には、材料に作用する負荷応力が材料の降伏応力(耐力)を超え破壊する降伏破壊と、降伏応力に満たない負荷応力が繰り返し作用することにより、材料(特に表面)に発生した(もしくは先天的に存在した)微小き裂が進展し破壊に至る疲労破壊があります。どちらの破壊においてもその原因となる負荷応力は引張応力です。
材料の曲げを例に挙げ説明します(図4)。
材料に曲げモーメントが作用する場合、横断面に作用する応力は中立軸上で0となり、中立軸からの距離に比例してその絶対値は大きくなります。
中立軸を境とした曲げ方向の内側と外側にはそれぞれ負の歪と正の歪が発生するため、曲げ方向の内側と外側の部材表面において、それぞれ最大圧縮応力と最大引張応力が作用します。
材料に作用する引張応力は、破壊の起点となる材料の微小き裂の進展・伝ぱを助長するため、引張応力を低減・除去することが破壊強度の向上において極めて重要となります。
ピーニング処理は、材料表層に残留していた引張応力を除去するとともに圧縮残留応力を付与し、以降、材料表面に作用する引張応力を相殺するため、結果として材料の見かけの強度を向上させ、降伏・疲労破壊に対する耐性向上に有効に作用します(図5)。
本項では、ピーニング処理では、引張応力を低減・相殺することが、破壊強度向上につながることをご説明しました。では、圧縮残留応力は実際の部品や材料に対してどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
前項でも述べた通り、ピーニング処理により付与される圧縮残留応力は、曲げやねじりなどにより作用する外力(引張応力)に対する耐性を高めることで、部品強度(降伏・疲労破壊強度)を向上させます。
また、材料/部品が腐食性溶液や蒸気、活性気体など化学反応が生じやすい環境中にあるときに発生しやすい応力腐食割れの抑制にも有効です。
※ 応力腐食割れは、材料の腐食と引張応力(内在する残留応力、外力による)が同時に作用することで、き裂を発生させ破壊に進展する現象です。
ここまで、圧縮残留応力が発生する原理と、その必要性、さらに部品強度向上や応力腐食割れ抑制といった具体的な効果について解説してきました。
ピーニング処理は単なる表面処理ではなく、材料表面の応力状態を制御することで、製品の寿命や信頼性向上に寄与する重要な技術です。
「自社部品にも適用できるのか」「どの程度の効果が期待できるのか」など、ピーニング処理に関するご相談も承っております。自社部品への適用や処理条件の検討についても、お気軽にお問い合わせください。
グローバルマーケティング部 佐田 俊彦