ピーニング効果と表面粗さを両立する新投射材「SUSTEAR®-P」【第5回】
ピーニングについてお話しさせていただいた本コラム、今回が最終回となります。
第5回である今回は、現在開発中であるマコーの「ウェットショットピーニングTM」用新投射材『SUSTEAR🄬-P』について紹介させていただきます。
1.『SUSTEAR-P』の特長
現在開発中の「SUSTEAR🄬-P」は、Ni基合金製の球状投射材です。
「SUSTEAR🄬-P」は粒子形状が整っており、比重はジルコンや「イットリア安定化ジルコニア(YSZ)」よりも高く、一般的な鉄系の投射材粒子(スチールショット)に近い値です。また、その硬度は、YSZには劣るもののジルコンや一般的な高硬度スチールショット(約800HV)よりも高いです(図1)。
高比重・高硬度である「SUSTEAR🄬-P」は、焼入材などの高強度材へのピーニング処理に適しています。
さらに、ウェット環境下で使用できる高い耐食性、欠け/破砕に耐えうる高い靭性をもち、腐食による自身の消耗や、錆の転写による処理対象物の汚染、欠け/破砕による処理品質の急激な低下が抑制されるため、処理品質を維持しやすい投射材です。
図2に各投射材ごとに一定時間消耗させた際の粒子状態とそれに伴う加工力の変化を示します。


ジルコンは1時間の連続投射で粒子の消耗とピーニング作用の変化が見られるのに対し、「SUSTEAR®-P」とYSZは10時間後も粒子形状が比較的維持され、圧縮残留応力・硬度への影響も小さいことが確認できます。
また、「SUSTEAR®-P」はジルコンの約350倍(処理条件により変化します)の寿命を示し、YSZには及ばないものの、優れた耐久性を有しています(図3)。
ウェットショットピーニングについて、まだご覧いただいていない方へ
では、こうした特長をもつ「SUSTEAR®-P」を用いることで、どのようなピーニング作用が得られるのでしょうか。
次のセクションでは、実際の計測結果をもとに詳しく見ていきます。
2.『SUSTEAR🄬-P』によるピーニング作用
図4に、浸炭焼入したSCM420に対しウェットショットピーニング処理を行った際のピーニング作用の計測結果、材料深さ方向における残留応力と硬度の分布を示します。
「SUSTEAR🄬-P」は、表層で-1800MPaを超える高い圧縮残留応力を示し、内部(深さ5μm付近)に-1900MPaを超えるピークを示しています。これらの値はジルコンよりも明らかに高く、YSZとほぼ同等です。また応力層深さも同様です。
この傾向は硬度においても同様ですが、硬度ではYSZよりも「SUSTEAR🄬-P」が高い値を示す結果となりました。これは、粒子硬度で劣るものの、比重による粒子重量増加に伴う粒子衝突エネルギが増加した効果と考えられます(残留応力は材料強度を超えて付与されることがなく、ほぼ上限に達したため、あまり差が無い結果となったと考えられます)。
ここで着目すべきは、処理後の表面粗さです(図5)。
「SUSTEAR🄬-P」は、YSZと同等の圧縮残留応力付与、硬度向上が得られているにもかかわらず、表面粗さが低い値となっています。これは、粒子硬度が(YSZに対し)適度に低い分、(付与される残留応力値が上限に達し、それ以上エネルギを与えても残留応力値がほとんど変化しないしきい値を超える)過剰な粒子衝突エネルギを粒子が自身の弾性変形で吸収した結果と考えられます。
十分なピーニング作用を付与すべく、被加工材材質よりも硬度が高く、かつ表面にダメージを与え過ぎない適度な硬度が「SUSTEAR🄬-P」の大きな特長です。
ここまで、SUSTEAR🄬-Pの特長と作用について見てきました。
次セクションでは、投射材の硬度によってピーニング作用や表面粗さがどのように変化するのか、実際の計測結果をもとに見ていきます。
3.投射材硬度による処理品質の最適化
「SUSTEAR🄬-P」の優位性を示した図4,5の結果は、浸炭焼入したSCM材のものであり、処理対象物(被加工材)の強度が異なれば、ここまでの優位性が得られないことも考えられます。
図6,7に、正規の「SUSTEAR🄬-P」の硬度1000HVを基準に硬度を変えた粒子を用いてピーニング処理を行った結果を示します。

粒子硬度を低くすることにより、残留応力の付与深さや内部ピーク値はわずかに減少するものの、表面の圧縮残留応力値は維持し、表面粗さをより低下させることが可能です。
また、粒子硬度を高くすることにより、表面粗さは増加するものの、残留応力の内部ピーク値を増加させることが可能です。
これらの結果は、浸炭焼入したSCM材のものですが、より強度の高い処理対象物に対しては高硬度の粒子が有効であり、逆に強度が低い処理対象物には低強度の粒子が有効であると考えられます。
「SUSTEAR🄬-P」は開発中であり、現時点でのラインナップは図1に示した1種類だけですが、お客様の処理対象物において、最適なピーニングや用途効果を得るために、粒子サイズ・硬度の対応が可能です。
4.まとめ
今回は、ウェットショットピーニング用の新投射材「SUSTEAR®-P」について、その特長とピーニング作用をご紹介しました。
「SUSTEAR®-P」は、高比重・高硬度に加え、ウェット環境下で使用できる耐食性や、欠け・破砕に強い高い靭性を備えたNi基合金製の投射材です。
高強度材に対して高い圧縮残留応力と硬度向上効果を付与しながら、表面粗さの増加を抑えられる点が大きな特長です。
また、投射材の硬度を調整することで、表面粗さをより抑える方向、あるいは内部の圧縮残留応力をより高める方向など、処理対象物の材質や目的に応じたピーニング品質の最適化が可能であることも確認できました。
「SUSTEAR®-P」は現在開発中ですが、お客様の処理対象物や求める効果に合わせて、粒子サイズや硬度の対応が可能です。
「圧縮残留応力は付与したいが、表面粗さはできるだけ増加させたくない」
「圧縮残留応力や硬度を少しでも高めたい」
など、高強度材へのピーニング処理に関するご要望やお困りごとがございましたら、ぜひマコーにご相談ください。
そして今回をもって、全5回にわたってお届けしてきた「ピーニングコラム」は最終回となります。
本シリーズでは、ピーニングの基礎から、その効果やメカニズム、ウェットショットピーニングの特長、そして今回の「SUSTEAR®-P」まで、さまざまな角度からピーニング技術をご紹介してきました。
本シリーズが、ピーニング処理への理解を深め、表面改質に関する課題解決の一助となれば幸いです。
全5回にわたり、最後までお読みいただきありがとうございました。
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✎著者情報
グローバルマーケティング部 佐田 俊彦





